日本の音大時代の同級生H


(私たちは仲のいい同級生よ❤)
 山ちゃんが日本の音大にいた頃の同級生にHがいた。Hは女性なのだが大学入学時から風格があり、みんなから「あかあさん」と呼ばれていた。彼女はピアノ専攻だった。その腕は入学時からすでに評判だったのだが山ちゃんが本当に感服したのはこんな事があってからだ。
 入学して間もないある日、山ちゃんは練習室でフルートをチャラ吹き(いろいろな曲をチャラチャラ吹く事でだいたい先生は真面目に練習しろと怒る)していた。曲はハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲をフルートで吹いていた。そこへ「面白い曲を吹いているじゃない!私が伴奏してやるから吹いてみて!」と言いながら入って来たのがHだ。するとすぐにオーケストラをピアノに編曲された難しい楽譜を初見でしかも完璧に弾いてしまった。そのHとは恋人になるでもなく、親しい友達になるでもなく卒業した。
 デトモルトへ来て約1年たった頃だった。寮の部屋で寝ていた山ちゃんを起したのは激しくドアをノックする音だった。なにやら声がする・・・「ヒデト〜、(山ちゃんの名前だルナ)ヒデト起き!私Hよ!」
なんでHの声がするんだ〜?寝ぼけていた山ちゃんには事態を飲みこめなかった。とりあへずドアを開けた。
山ちゃんは再びびっくりした。目の前に立っていたのは1年前に卒業した「おかあさん」と言われていた風格のHではなく、かわいらしい日本の女の子のように若返っていたからだ。だが大きな態度は間違いなくHだった。Hは山ちゃんの部屋にずけずけ入ると二人で積もる話をした。山ちゃんはHはフランスへ留学したのだと思っていたので、ドイツのしかもこんな田舎にHが現れるだけでびっくりだし、デトモルトの音大に留学したと言うからまたまたびっくりで、さらに同じ寮に住むというからまたまたまたびっくりだった。そして数日後にさらなるびっくりするような言葉を彼女から聞かされたのだ。「ヒデト、Y君から聞いたのだけどスペインへ行くんですってね。私も行くから!」
こうしてスペイン、ポルトガルへの旅は、思いがけず3人の珍道中になってしまったのであった。