曲目解説(2)

 僕は自分のコンサートでは直接解説しながら演奏するスタイルを好んでやってきた。話す内容も決めないで会場の大きさやお客さん層や雰囲気などで柔軟に変えている。だからこうやって文章として残るような解説すると緊張してしまう。誤字や間違ったことを記していないか、その心配もあるが、それ以上に僕は文章というものはその人の精神がそのまま表出されるものだと感じているからだ。だから解説文でみられる「この曲は(他の名曲)で有名な作曲家が・・・」というような読んでいる人の知識を試すような表現は避けるようにしている。が、今回はその手法を用いて解説する。というのは僕はこの曲を上手に解説する自信がないからだ。
 シュテックメスト作曲『「歌の翼」による幻想曲』だが、シュテックメストなんて作曲家は誰も知らない。おそらくフルート演奏家だったと想像される。だがこの曲はフルート愛好家にとってはとても有名な曲だ。それは愛好家が演奏したり聴いたりする機会が多いからだろう。この曲の魅力は『歌の翼』というテーマにある。これはヴァイオリン協奏曲や『結婚行進曲』で有名なメンデルスゾーンが作曲した歌曲によるもので、これが素敵な旋律なのだ。誰もが一度聴くと口ずさみたくなるような旋律なので、当然フルートでも吹きたくなる。これをシュテックメストは本当に上手に変奏曲にしている。それはいい食材をシンプルにその美味しさを味わってもらえるよう手をかけ過ぎないように工夫された料理の如く、メンデルスゾーンの素敵な歌曲という素材を損なわないように創っている。まるでメンデルスゾーン自信が創作したように。しかも演奏家が作曲すると嫌味のように技巧に凝る事が(特に変奏曲においては)多いのだが、この曲は技巧に凝り過ぎないから愛好家が演奏するのに難しくなく、かといって平易な曲には聴こえない。だからフルート愛好家にとっても有難い曲なのだ。僕がこの曲に難癖をつけるとしたら、『幻想曲』なんて大仰なタイトルを付けずに『変奏曲』とするべきだったと思っている。もし作曲家自身が本当にこのタイトルを付けたのだとしたら、僕はこの作曲家は好きではない。が、この曲は吹いていて楽しくなるほど大好きで、今までで一番演奏回数が多い曲だ。