曲目解説(3)

 ドイツの作曲家ベートーヴェン交響曲第9番、所謂『第9合唱付き』を作曲した6年後の1830年、フランスの作曲家ベルリオーズ幻想交響曲を作曲した。この二つの交響曲音楽史において大きな意味を持つ。オーケストラの大曲の全てが交響曲ではない。交響曲とはソナタ形式を第一楽章にもつオーケストラの曲でそれ以外は管弦楽曲という。ソナタ形式をここで語るにはあまりにも難しい。が、簡単に言うと音楽の形式で作法みたいなものだ。この形式美がドイツ音楽の真骨頂であり、その絶頂期がウィーンのハプスブルク家が繁栄した古典派の時代になる。だから皆さんが知っているこの時代の作曲家はみんなドイツ、オーストリアで活躍したといって過言ではない。その最高潮の傑作がベートーヴェンの1824年に創った交響曲『第9』だ。その後のドイツ、ロマン派の作曲家達は形式美という古い価値観に苦しむ。一方フランスではベルリオーズが1830年に幻想交響曲という形骸化した形式美や演奏法を打ち破る化け物のような名曲を創ったものだから、その後フランスの作曲家達は長らく幻想ショックに苦しむ。それから解放されるには、1862年に生まれたドビュッシーが活躍するまで待たなければならなかった。彼は新しい音楽語法を作りフランスの作曲家の隆盛を誇った。だがそれまでのフランスにいい作曲家がいなかった訳ではない。彼らは幻想ショックに悩まされながらも形式美と新しい感性の融合した美学を追求した。その作曲家の一人にフォーレ(1845〜1924)がいた。僕が3曲目に演奏するのは彼が作曲した小品『シチリエンヌ』シチリア舞曲だ。この舞曲は8分の3拍子で書かれた比較的ゆっくりな舞曲で古くから多くの作曲家が創っていた。フォーレはこの古くさい舞曲にフランス流のお洒落なエッセンスを彼独自に配合して注入し、とても魅力ある小品にした。だからこの曲はフルートだけでなくヴァイオリンやチェロでも演奏される。