曲目解説(4)

 作曲家は演奏家でもある。バロック時代のバッハ(1685〜1750)や古典派のモーツァルト(1756〜91)の時代、作曲家は貴族に雇われていてその地位も高くはなかった。楽団を持っている事は貴族のステータスになってた。だって来賓を招いての晩餐会やダンスには音楽が欠かせないからだ。だが貴族とて湯水の如く音楽に浪費する訳にはいけない。だから演奏もできて作曲もできる人間が重宝がられた。ベートーヴェン(1770〜1827)以降、ロマン派と呼ばれていた時代はその貴族が没落し作曲家は就職難になった。そのかわり書きたい曲を自由に創作できるようになった。だが手っ取り早い収入源は演奏する事と教える事だ。だからどんな時代でも音楽に関わる本質は変わらないのかもしれない。ただ作曲という観点からロマン派の作曲家をみれば、大きく二つのタイプがあった。一つは、演奏家(特にピアニスト)としても有能な作曲家が交響曲弦楽四重奏やオペラなど幅広いジャンルで創作活動を行う作曲家達だ。今でも名前が残っている作曲家のほとんどはこのタイプの作曲家だ。もう一つのタイプは、自分の演奏できる楽器の技巧を限りなく駆使した作風に徹した作曲家、所謂ヴィルトーゾと呼ばれた作曲家だ。このタイプはヴァイオリニストに多く、パガニーニサラサーテクライスラー、イザイ等がいる。彼らの名前を知らなくても心配ない。そのような作曲家はその楽器をしている人にしか知られていない場合が多い。例外はピアノのショパンくらいか。それだけピアノがクラシック音楽の中では主流になっているという事だ。
 ヴァイオリンの鬼才と言われたパガニーニの孫弟子(弟子の弟子)にモンティ(1868〜1922)がいる。彼は幸運の持ち主だ。だって彼はヴァイオリニストだが有名な曲は1曲しかない。しかしそれが名曲なのでその曲と共に彼の名前が世に残った。その曲名は『チャールダッシュ』。もともとチャールダッシュとはハンガリー特有の速い曲想と遅い曲想が交互に出てくる楽しい舞曲の事なのだ。だからこの世の中にチャールダッシュは数え切れない程ある。だが一般に『チャールダッシュ』というとこの曲の代名詞になっている程有名なのだ。しかも作曲したモンティはイタリア人でフランスで活動した訳でハンガリー人ではないのだ。その程度のヴァイオリニストなのに、とにかくこの曲はよく演奏される。僕もこんな曲が書けたらと思う。誰も僕の事は知らないのによく演奏してくれて名前だけはよくプログラムに載っている。そんなのも悪くない。