曲目解説(5)

 誰もが彼の名前を知っていて、彼の曲を知らない人は絶対にいないであろう作曲家がいる。ポーランドで生まれパリを中心にフランスで活躍したショパンだ。彼の作品のほとんどはピアノ曲であり、そのどれもがピアノの魅力を感じさせてくれる、まさに彼こそがピアノの申し子であろう。だから彼は『ピアノの詩人』といわれる。彼の人生は彼の音楽そのものなのだ。
 20歳のショパン(1810〜49)は戦禍を逃れるために故郷ワルシャワを離れウィーンへ行くが、保守的な街ウィーンではショパンの音楽は受け入れられなかった。そこで彼はパリへ行き成功する。彼の名前、Chopinをチョピンとかチェピンスキとかに改名しないで母国読みにこだわった父親の想いを鑑みると、ショパンがパリで成功したのは必然だったのだろう。ショパンは様々な音楽素材を美しく華麗なピアノ曲に変えた。ポーランドの農民の土着的な舞曲だったポロネーズマズルカも、ただの小品だったノクターン夜想曲)やスケルツォもピアノの錬金術師の如く芸術に昇華させた。
 『革命のエチュード』『雨だれの前奏曲』『別れの曲』『英雄ポロネーズ』等、興味をそそるタイトルが並ぶ。だがショパンはタイトルを付けられる事を好まなかった。タイトルを付けたのは出版編集者だ。それにより楽譜が売れるのであればそれもしかたがない。だがここでも出版社のセンスが光る。だってこのようなタイトルを見たら聴きたくなる。あるいは弾きたくなる。ショパンも出版社もその期待を裏切ることはない。だから他のタイトルの無い曲も手を出したくなる。ショパンはそれを裏切らない。
 さて今回では僕がショパンの『仔犬のワルツ』をフルートで演奏する。シッポをとろうとクルクル回っている仔犬に着想を得たショパンが創ったというこの曲。そのエピソードの真偽はともかく、この曲でも当然ショパンは裏切らない。あとは僕が聴いている方々の期待を裏切らないような演奏をするだけだ!が、それが難しい。