曲目解説(6)

 「欧米人は犬より小さいものは目に入らない。」とよく言われる。それは犬と密接に共にしてきた狩猟民族の血がそうさせるのだろう。だから欧米は犬には、とても寛大だ。行かれた方は見られただろうが、あちらでは公園や道でも犬がリードで繋がれずに歩いている。地下鉄や電車の中でも一般の犬が普通に乗ってくる。勿論訓練を受けさせての事だ。一方日本では、犬を連れて入っていい公園すらなかなか無い。あってもリードを付けるのが条件だ。これはマナーだから仕方がないが、ようするに犬への信頼関係が薄いという事なのだろう。日本は農耕民族だから仕方がない。そのかわり犬より小さな小さな虫などには詳しい(人もいる)。虫と同様に家にすら入れてもらえない犬もたくさんいる。日本の家のほとんどは土足厳禁だから仕方がない。日本の長い歴史の中では、犬は使役犬ではなく番犬だったのだから。
 いかにも欧米の犬らしい曲がある。タイトルがまた大ざっぱでいい。プライアー作曲の『口笛吹きと犬』だ。タイトルそのまま、飼い主が口笛を吹きながら歩いていて、その後ろを、あるいは気まぐれにその前をシッポを振りながら足取り軽く犬が歩いている。そんな情景が浮かぶ楽しい曲だ。時々音楽が立ち止まる。おそらく犬がオシッコをするのを待っているのだろう。演奏していても最高に楽しい曲だ。特に僕はルナピンスキーと一緒に散歩しているイメージが膨らんでとても愉快になる。ライ君は連れて行かない。だって二匹をリードなしで歩かせると勝手気ままで統率がとれない。まるで変拍子の現代曲になってしまう。口笛吹きというからにはフルートでもまだ音が低い。僕はフルートを置いて、もっと音が高くて口笛らしい楽器で演奏する。
 それにしても、自分の犬をイメージして作曲したプライアーはおそらく本当に口笛が上手だったに違いない。だからこそ残念だっただろう。だって彼はトロンボーン奏者だった。やはりこの曲は低音のトロンボーンより口笛のような楽器の方がふさわしい。