ライ君物語(3)


 ライ君は人気者だった。それも当然だ。彼は2歳過ぎまで量販店内のペットショップの看板犬だったのだ。しかも老若男女誰に対してもピタッと自分の身体を相手に寄せるのだ。可愛がられない筈がない。実際にペットロス症候群だった僕もライ君で癒されたものだった。
 だがこうして我が家の一員になったライ君となると飼い主として少々複雑だ。他人になつかない柴犬が人気だという飼い主心理の逆で、ライ君は誰にでも愛想が良すぎた。「このやろう。」と少し思う事がある。
 ライ君を飼い始めて一年位は、どこに散歩へ連れて行ってもいろいろな人から「もしかしてライ君ですか?」とか、「ペットショップにいた仔ですよね?」など言われ、みんながライ君を撫でていった。ちょっとした人よりもよほど有名人だ。いや有名犬だ。
 ある日、バイクに乗ったおばさまが「ライ君。」と言ってバイクから降りて寄ってきた。その時のライ君の喜びようは尋常ではなかった。ライ君は飛びかかっておばさまの顔を舐めまわしている。話を聞くと、どうやらペットショップの若い女性店員のお母様で、その女性店員がとってもライ君を可愛がっていて、何度か家にも連れて帰っていたそうだ。現在でも、そのおばさまに出会うとライ君の反応は他の人とは違う。そしてそのおばさまの娘、つまり若い女性店員は、産休で辞職した店長に代わって新しい店長になられた。この事は我が家にとって大きく運命的な出来事になったのだった。