第二幕第二場(3)

「関西以西のおでんは、昆布出汁ではなく牛のスジ肉を使うのですよ。しかもそのスジ肉も食べます。神杉さんは出汁の味でそれを見抜いたのです。ただ先生の言ったアキレスはスジ肉と混同されやすいのだけどちょっと違うのです。スジ肉は肉と肉の間に付いている筋の事で、アキレスは所謂本当にアキレス腱という固有の部位なのでとっても固いのです。だから長時間煮込まないと柔らかくなりません。このおでんの出汁にはそのアキレスが使われていると先生は言ったのです。」
「ふ〜ん、うちん家のおでんにはそんなん入ってなかったから知らなかったわ。オロチ君よく知っているねえ。もしかしてオロチ君関西の人間なんだ。いや違うわ。だって関西人は東京にいても関西弁が抜けないんだもの。オロチ君はもっと西の出身ね。」
(この娘、意外と賢いのかも・・・それより何故タメ 池までオロチ君て言うのかねえ。)
「はいっ、正解です。それより出汁の素材を言い当てちゃった神杉さんも西の方の出身ですか?」
「ええ、そうよ。おそらく山多君と同郷ではないかしら。」
「えっ、じゃあ山口ですか?僕は誰にも言った事ないのに何故わかったのですか?」
「たった今わかったのよ。『言い当てちゃった』と言ったでしょう。あれは山口弁の尊敬語よ。それより先生、アキレスを使っていらっしゃるならそのお肉はどうなさったの?」
「ああ、ちゃんとありますよ。ご希望の方にお出ししようと思っていました。」
「なんだあ赤ハリ、勿体ぶらないで全員に出してよ。」タア子が言うとタメ池が続いた。
「うちも食べてみた〜い。」
 赤ハリ先生は、串に刺さったアキレスが二本ずつ小皿にのせてそれぞれのカウンターへ置いた。