第二幕第二場(4)

「という事は、赤ハリ先生も関西の出身ですか?」
 唐突なノブタの質問にタメ池が突っ込んだ。
「という事はって、どういう事よ?」
 (この娘、やっぱりバカ?)
 面倒臭そうにノブタが答えようとする代わりにタア子が答えた。
「アキレスを使ったおでんを出した赤ハリは関西出身なのか?という事よ。わかった?」
「いえいえ、私は関西出身ではありません。東京で生まれの東京育ちです。アキレスは私の親友が教えてくれたのです。親友は九州出身の有名なミステリー作家でした。」
「でした、って何故過去形なの?」
 (この娘、一体バカなのか賢いのか?)
 私はタメ池の言動に呆れながら左横を向くと、ノブチンの頬に流れる一粒の涙を見てしまった。
「私の親友は十年前に亡くなりました。料理がプロ並みに上手で、よく私に旨い料理を出しながら、こんな料理を出す飲み屋をやりたいって言ってました。お店の名前も決まっていたのですよ。週に三日しかやらないから『三日坊主』という店名なんだって、面白いでしょう。」
 誰も面白くないとは言えなかった。それにノブチンがハンカチを出したものだから・・・
「ところで赤ハリはこの店の名前を決めているの?」
 タア子がいいタイミングでいい事を訊いてくれた。
 (そういえば、イイダコっていたなあ)
「そうですねえ、候補は二つあります。どっちがいいかみんなにも考えてもらいたいと思っていたのですよ。」
「まさかその中に『三日坊主』が入っているのではないでしょうね?」
 (このタコ、今褒めたばかりなのに、何故またむし  返すのかねえ)そう思いながら私は無意識にノブチンを見ていた。ノブチンは普通に赤ハリ先生の方を見ていたが、その手にはしっかりとハンカチが握られていた。
「いえいえ、真面目に考えましたよ。一つは酒蔵の蔵に漆喰と書いて『蔵漆喰』(クラシック)と読みます。もう一つは同じ蔵にカタカナで『蔵ビーア』です。これはみなさん既におわかりのように、ピアノのドイツ語読みであるクラヴィーアとビールのドイツ語読みであるビーアを掛けています。」
・・・・・・(一同)
「あのう、如何ですか?どちらがいいと思いますか?」
・・・・・・「ねえ、そのオヤジギャグのような名前って本気で考えたの?その二つしかないの?」
タメ池がみんなの気持ちを代弁してくれた。