作家が書いたピアノコンクール(5)

 4人目のコンテスタントは高島明石、彼は普通の家庭で育った。父親が転勤族なのでピアノを家に置けなかった。祖母がピアノを買って蚕のいる蔵に置いてくれた。彼はそこでピアノを弾くのが好きだった。祖母はそれを喜んで聴いてくれた。明石はその蔵にいた。もう一人仁科雅美がいた。彼女は明石の同級生でジャーナリストだった。ピアノコンクールをコンテスタントの表情から映像にしたくて明石にコンタクトをとったのだった。それに彼女は音楽的にも裕福な家庭環境で育ったコンテスタントの中で普通の家庭で育ち普通の楽器店で勤めているアマチュア演奏家である明石の横顔(プロフィール)を中心に撮影したかった。明石には高校の物理の先生をしている妻がいた。普通の家庭環境にいる明石は年齢的にも今回のコンクールが最後のチャンスだった。明石と雅美は懐かしい昔祖母が勝ってくれたピアノのある蔵に来ていた。明石は不思議と緊張していなかった。
 明石の一次予選は初日だった。前日には会場のある芳ヶ江に入った。予選は一日18人一人30分以内5日間行われる。弾く方も大変だが聴く審査員も大変なことだった。いよいよピアノコンクールが始まるのだった。