師走の囁き(3)

今年、母の双子の妹の叔母が亡くなった。二人は広島で生まれ育った。同じ所で原爆に遭いそこから二人の生活は別々になった。叔母はずっと広島で暮らしていたので僕も夏休みになると広島の叔母の所へ滞在した。そんな僕を叔母はよく可愛がってくれた。年上だった叔母の息子と娘(僕の従兄姉)は現在東京在住なので叔母の葬式は東京で身内だけでおこなったようだ。その叔母の納骨をするために関係者一同が広島に集ったのが7月だった。僕は久しぶりの広島だったので納骨後の会食は食欲不振を理由に辞退し町を散策する事にした。納骨したお寺は平和記念公園の近くにあった。そこから広島駅まで歩いて行ける距離だ。その途中には商店街のアーケードありいくつかのデパートがありレストランやうどんの有名な店があり飽きるどころかとても楽しい。とはいえ、その日は自重しその賑わいの中を歩くだけにした。賑わいから抜けたところに母校エリザベト音楽大学がある。僕はその日、一つの目的があった。一つは僕が在籍していた頃とは全く変わった母校を見る事で、もう一つはその隣に高く建立している世界平和聖堂に行って祈る事だった。このカトリック聖堂はエリザベトの学生にとって大変深く関わっている聖堂だ。詳しくはここでは述べないが、毎年のクリスマス・イヴのミサは学生全員が参加した。通常のミサは約1時間だが、特別のクリスマスミサは通常神父さんの言葉で進行する箇所の多くを歌で行われるので2時間近くかかる。その合唱を学生が教会後部の高所のパイプオルガンの前に並んで歌うのだ。その後隣接の大学に戻ってクリスマスパーティーをして深夜解散になる。勿論女学生が多いので女子はタクシーで分乗して帰路に向かう。そんな思い出の場所に僕は行った。