赤ちゃん猫騒動記(1)

酒祭りで僕のお店の前でテーブルを囲んで飲んでいる時も、時々「にゃ〜にゃ〜」と甲高い鳴き声が聞こえていた。そうなのだ。店の屋根裏に赤ちゃん猫がいるのだ。親はわかっている。これを語るには少しだけ親猫のプロフィールを紹介しなければならない。それらが今回の騒動の伏線になるからだ。
 4年位前だったろうか、一匹のトラ猫が店の裏の母親の住居の塀に姿を現すようになった。しばらくしたらチョロチョロと動く子猫が5匹現れるようになった。まだまだ小さい子猫は可哀想なので飢えない程度に餌をやった。親猫も子猫たちも遺伝子的に共通した特徴があった。用心深くちょっとでも近づこうものならすぐ距離をとる。でもこちらの様子はじっと見ている。あとまったく鳴かない。うんともすんとも言わないで現れたり待ったりしていた。僕は勝手に子猫たちの名前を付けた。詳しい柄は書かないから名前から想像してください。「トラ」「茶」「グレ」「コゲ」「?」その中でも比較的、積極的に愛きょうで振舞っていたのは「トラ」だった。だからまっ先に餌にありつけたので一番大きな子猫になった。その愛きょうはどこかで売れたのかすぐにいなくなった。親猫や子猫たちも一匹一匹とだんだん姿を見せなくなったが最後までいたのが「コゲ」だった。「コゲ」は臆病で一番小さくていつまでも家から離れる事はなかった。「ミャ〜ミャ〜」の赤ちゃん猫の親こそがこの「コゲ」なのだ。でも「ミャ〜ミャ〜」に行きつくまでにも彼女は壮絶な猫人生を歩むのだった。