シリンクス(2)

 人間界でも普通によくあることだが、ギリシャ神話の世界でも同様だ。牧神パンは妖精シリンクスの事が大好きなのだがシリンクスはパンが嫌いだった。しかも露骨に嫌っていた。パンが「一緒に遊ぼう」とシリンクスに言い寄ると彼女は逃げた。それをパンは追いかける。ひたすら逃げるシリンクスにそれを追いかけるパン。やがてシリンクスは葦の原に逃げそこで一本の葦に変身した。さすが妖精だ。人間ではできない。僕ならションボリと諦めて帰っただろう。なにより僕はしつこく追いかけない。ところが神話は違う。パンはションボリしながらも葦の原の中から風に吹かれて美しく音を鳴らしている葦を一本取っていくつかに切って束ねた楽器をつくって演奏した。それが前出のドビュッシーのフルートソロの曲であり、現在のフルートの起源でありアンデスサンポーニャパンフルートはもっと原型に近い。僕はパンがそれをシリンクスだと確信して切ったのだとは思わない。葦に変身したシリンクスと音楽で対話したかったのだと思っている。だからパンは変身したシランクスの葦ではない鳴りにくい葦を楽器にしてそれを美しく吹いたのだと思う。だから人間界も練習をしなければ楽器は上手に演奏できない。
 今回はパンとシリンクスの神話を述べたが、似たような神話、いや一般的にはこっちの方が有名だという神話があるので次回はそれを語ろう。キーポイントは愛の妖精エロスだ。