信じられない演奏会の後で


 ある日ある大学の同窓生から電話があった。
「山田君、今度同窓会をしようと思うけど・・・」
 僕達のの学年はすごく仲が良かった。でもクールな関係だった。つまりべたべたした関係ではなかった。大学主催の同窓会が過去2回あったが誰も参加しなかったと思っている。勿論僕は参加していない。し、多分同窓生も参加していないのではないかと思う。僕らの学年は全部で130人、音楽大学でも小規模だ。しかも管楽器、弦楽器、打楽器、通称管弦打コースは13人しかいない。だから30年経った今でもみんなをフルネームと呼び名で言える!そんな関係だ。その中で男は僕とトランペットの2人だけだ。学年全体でも男は5人だけだった。因みに、もてるもてないは確率の問題ではないとその大学で学んだ。トランペットの男は凄くもてた。でも彼は中学生からつきあっていた彼女と結婚した。彼は非常にクールだと思っていた。
 今回の同窓会の話しは全体ではなく管弦打13人での話で僕は「トランペットの彼が出るなら行く!」と返事した。これはとても卑怯な断り文句のつもりだった。当然彼は断っていると思っていた。ところがだ。彼は行くと言う。「僕らも歳をとったんだろうなあ。」と言った。
 そう心に決めると楽しみになった。久々広島に行く。最近は九州方面ばかりだから広島は楽しみだ。昼その同窓会へ出席して夜はカープ巨人戦を観てホテルに泊まって帰ろう!とワクワクしていた。が、神様はそうは許さなかった。
 息子が参加するオーケストラの演奏会が今年に限って最終日曜日でなく同窓会と同じ日になったと家内が言う。そして自分はそっちへ行って泊まってくるという。うちには生りはデカイがまだ8ケ月の(40キロ超)ワンちゃんがいる。誰かがオシッコやウンチをさせに庭に出さねばならない。僕の心は超萎んだ。(同窓会だけのために広島へは行かない!)と決意した。
 さて、前日の福岡からの帰りの新幹線の中だ。やけ酒のノンアル・缶ビール3缶飲みながら考えてみた。「信じられない演奏会」のために交通費約1万円使って5千円のチケット買って行った事を思うと、同窓会費5千円で懐かしい(約30年ぶり)みんなと2時間会うのに交通費1万円掛けてもいいではないか・・・という気がしてきたし、その方がよほど有意義で楽しいだろう。
 そういう意味でも、やっぱり、信じられない演奏会だったのだろう。だとしたらその演奏会も感謝だ。