近況報告(譜めくりの話)


 僕は学生時代よく譜めくりを頼まれた。譜めくりとはピアニストをサポートする作業だ。両手を駆使して頑張っているピアニストに傍で楽譜をめくってやるのだ。えっ?そんな人いたかしら?と思われたとしたら、その人は最高の譜めくりだ。機会があれば譜めくりに注目して欲しい。本当に黒子のように振る舞い見事にその役を全うしている。
 では何故僕がその役を命じられていたか?真意はわからないが自分なりに分析すると、第一は楽譜が読める事。これにおいては現代音楽でもなんでも初見で全く問題ない。第二は存在感が地味だったからだと思っている。ひがみではないが多くの女性(ピアニスト)が僕の事を地味な男と思っていたと思う。それからこれは僕の偏見かもしれないが、同じピアニストに譜めくりを頼んで隣に座られるのが嫌だったのかもしれない。つまり僕はちょうど都合のいい奴だったのだ。それも30年前の話しだ。
 さてさて最近その譜めくりをする機会があった。最近よく一緒に演奏するピアニストからの依頼だ。発表会のような場所でそのピアニストとヴァイオリニスト、チェリストの3名が奏でたメンデルスゾーンの名曲、トリオソナタの第一楽章を譜めくりした。その時の模様をヴィデオで見たピアニストが僕にクレームをつけたのだった。
 別の演奏の練習の為に彼女の家へ行った時だった。
「山田さん、ちょっとこの前の演奏のヴィデオを見てみませんか?」
 僕はそんなにへんな譜めくりをした自覚は無い。「いいけど???」その結果が抱腹絶倒だったのだ。