ルナの奇跡


 ルナが亡くなったのは10年前に亡くなった僕の父の命日の二日後の10月12日だった。
 大型犬を連れているとよく人から言われる。「よく食べるでしょう、食費がかかるでしょう。」小型犬を飼った事が無いから実感はないが、大型犬だからといって食費がかかるという印象はない。お金がかかると言うのなら食費より月々のフィラリアの薬代だ。フィラリアの薬は体重で量が決まるらしく当然体重があればある程薬代はかさむ。先代のムンは47キロあった。ルナは全盛期で58キロあった。せめて30キロあればと言われて我が家にきたライ君ですらいまや48キロある。フィラリアの薬代は4,5千位はかかる。でかいサイコロ状の薬をこいつらはパクッと一瞬で食べてしまう。僕は心の中で「おいおい、美味しいランチが食べられるではないか・・・そんなに一瞬で喰うなよ!」と呟く。
 ルナとの出会いは奇跡的だった。滅多に行かない他の街をフラフラしていた家内が、たまたま見つけたのがルナだった。グレートデンのルナは血統証は無いが3歳だとの事だった。ルナを飼うにお金はかかっていない。病気もほとんどしなかったので、食費とフィラリアの薬代、それにペットシッター代位だろうか。それでも7年間一緒に暮らしたのだ。それなりにお金がかかった。そんなルナが亡くなってから最後の奇跡を起こしてくれた。
 ルナが亡くなった数日後、母親の家の机の上に何やら郵便局からの亡き父親宛ての通知がほったからしになっている。僕が「なんで今頃父親宛てに通知があるの?」と開封すると、僕には理解できない数字が並んでいた。さっそく近所の郵便局に言ってそれを見せると局員が「お父さまの残された通帳がある筈だ」と言う。その類は父が亡くなった時に全て清算した筈だでそのような通帳は無いと僕が言うと、まだ残っていてこれだけ残高があると、その額を聞いてビックリだ。ルナの生前にかかった経費を引いてもちょっと残る程の金額があったのだ。局員の人も「まれにこんなこともあるけど、ほとんどは数千円程度なんで放棄されるのですけどね。」と言われた。まさしくルナの奇跡だった。