ルナの記(7)


 ルナはとにかくドライブが好きだった。これは我が家にきた犬達みんなそうだった。
 初代のムンは車の中ではほとんど後ろで伏せていた。ムンはドライブの行程の中では車の中より、目的地や休憩で車から降りた時の方が嬉々としていた。どこへ行っても何をしても楽しそうだった。
 ライは車の中では後部でちょこんと座ってガラス越しに後ろを見ている。後部座席の窓を全開にしておくのだが、時々そこから顔を出してハッハハッハしてすぐに定位置の後ろで座っている。ライはどこへ行っても僕に忠実だ。当たり前だが犬らしい犬だ。ルナと一緒になってからルナの気ままな性格に合わせていたので忘れていたが、ルナが亡くなってライだけで散歩するようになって昔の散歩を思い出した。今朝も河原をリードを外して散歩したが、ライは僕の前をつかず離れず先導していいテンポで歩いてくれた。忘れていたお散歩感だった。
 ルナは気まぐれで自分の意思を前面に出していたが喜怒哀楽は控えめに表した。考えてみればルナと僕だけの生活を送った事はなかった。そこにはいつもライがいた。もしライがそこにいなければ、ルナはもっと僕に甘えてくれたのだろうか・・・。ルナの気まぐれから、時々ライと僕だけで散歩へ行く事はあった。でもおもしろいもので、その時のライはルナと一緒の時のように気ままで道草を食ったり、なかなか来なかったりしていた・・・と、今朝のお散歩で気付いた。今は叶わなくなったが、ルナだけの散歩をしてみたかった。ルナはとにかくドライブが好きだった。そして車の中が一番好きだった。後部座席隣の窓から首を出してずっと外の景色を見ていた。ルナの首は馬ですか?とよく訊かれる程の長さだ。勿論馬ほど長い訳ではないが犬の中では一番首が長いだろう。彼女は1時間2時間のドライブのほとんどを景色の観賞にあてていた。僕はそんなルナの様子をチラチラとサイドミラーで見ていた。今でもその癖が抜けない。今でもチラチラとサイドミラーを見てしまう。でもそこにルナは写っていない。