ルナの記(6)


 親バカならぬ犬バカではないが、ルナがいかに賢かったかその一例を記そう。
 ルナは時々ライ君がくつろいでいるベットに入りたがっていた。ルナが我が家へ来た時、ルナは僕の目の前でベットにいるライ君のもとへ行って『ウォン!』と吠え威嚇した。ライ君は情けなくもすごすごとルナにベットを譲ったのであった。僕はルナに強い口調で「こらっ、ルナ!ダメ!そこはライ君の場所!ルナはあっち!」とたしなめた。するとルナは目をしばしばさせながら退散した。それからはルナは二度とライ君のベットに入る事はなかった・・・と、言えばただの賢い犬でおわってしまう。ルナは賢い頭を我慢する事ではなく自分の欲望の為に使った。
パターンその一。
 ルナがライ君がくつろいでいるベットの傍らに立つ。「ん〜?」僕がルナを見ていたが、ルナは何もしない。ただただ横になっているライ君の傍らで仁王立ちしている。ライ君は時々ルナを上目づかいに見ている。それでもルナはジ〜っと黙ったまま立っている。やがてライ君は居た堪れなくなりバタバタっと立ちあがって去ってしまった。ルナが何もしていない以上、僕は注意する事はできない。何回か「ルナ〜」とやわらかくたしなめたがルナは知らん顔してライ君の傍らから離れようとしない。結果はいつも一緒だった。つまりいつもルナが、ライ君のいなくなったベットを一人占め?だった。 
パターンその二。
 ルナは我が家へ来てすぐに、ライ君が凄くやきもちやきだと理解した。だから散歩へ行って、自分が人から可愛いと撫でられていると、ライ君が割り込んで入ってくると悟った。だからルナは人に対して甘えたいのだけどしれ〜と立っているだけだった。そのそばでライ君が撫でられシッポをブンブン振っていた。
 そこでルナは、そんなライ君の性格を逆手に取った。ルナはまずベットでくつろいでいるライ君の傍らに立つ。当然ライ君は上目でルナをチラッと見ただけで無視だ。そこでルナは椅子に座っている僕の所へやってきて、僕の膝へ頭を押し付けゴリゴリしながら甘えてくる。僕が「どうしたの?撫でて欲しいのか?」と、ルナの頭を撫でてやる。するとライ君がハッハハッハと言いながら僕達の所へ割り込んできた。僕がライ君の頭を撫でてやりながら気がついた。ルナがいない。見回すとルナはライ君のベットに横たわってくつろいでいたのだった。
 人間も犬も一緒なのかもしれない。女性が賢く、男は馬鹿な方がいい仲になれるのだと思った。