ルナの記(5)


 ルナとライ君は最初から仲良しだった訳ではない。というか、最後まで仲良しではなかった・・・と、僕は思っていたのだが、ルナがいなくなって何となく元気のないライ君を見ていると、それなりにいい相棒か仲間のような夫婦だったのかなあと思った。
 ルナが我が家へやってきた時、ライ君は迷惑そうな顔をして露骨に「こいついつまで居候する気なのだろうか?」なんて顔をしていた。ルナはルナで超然と優しく振る舞ってはいたが、シッポはいつも下へ巻いてお腹の中にあった。そのシッポが下へ巻かなくなってプンプン振るようになるのに1ケ月はかかった。その間ルナは我が家へ馴染もうと一生懸命だった。
 お座りもお手もできなかったルナが、ライ君の見よう見真似でご飯とおやつの時だけライ君の隣でお座りとお手だけ頑張ってやった。
 お散歩も頑張って先頭を走ってリードしようとした。が、彼女の性格からリーダーには向いていないのだ。気ままなリーダーにライ君も僕も翻弄された。だがルナは頭がよかった。自分はリーダーには向いていないと気付いたルナは無理しないでライ君の後ろを気ままに歩いてついてきた。
 二匹とも大型犬なのでできるだけ人けのない所を、リードなしで気ままに歩かせてストレスがないようにしてやった。僕がさっさと歩くとライ君は置いて行かれないように忠実についてきた。ルナはそれこそ本当に道草を喰いながらある程度距離がひらくと慌てて走って追いついてきた。とはいえ、二匹とも犬だ。しかも僕は全く彼らを訓練していない。時々は見えなくなるまで勝手に道草喰う事もあった。二匹とも見えなくなると、さすがに僕は引き返しながら怒鳴って呼びつける。どちらか片方だけの場合が、二匹の性格と関係が如実に現れて面白かった。
 だいたいはこのパターンなのだが、ルナが道草喰って見えなくなってもライ君は知らん顔して僕についてきた。で、たまにライ君が道草喰って姿が見えなくなる事もあった。するとルナは僕とライ君が見える中間に立ち止まって心配そうにライ君が来るのを待っているのだ。僕が意地悪くさっさと後ろ向きに歩いていると、遠く向うから慌てて走ってくるライ君とその隣でライ君の方を向いて文句を言いながら並走しているルナの姿があった。ルナはライ君を愛していたのだった。いやライ君のお母さんだったのかもしれない。
 散歩から我が家に戻ると裏口から直接居間へ入るのだが、教えもしないのにルナはライ君が先に入るまで待っていた。本当に賢い娘だった。