ムンの命日


 どこにでもある話だが、第一子の写真はたくさんあるが第二子からの写真は極端に少なくなる、とか。類に漏れず我が家もそうだ。我が家は人間ではない。極端に写真嫌いな僕だから我が子の写真は第一子第二子関係なく少ない。そんな僕でも犬の第一子の写真は結構撮ったものだ。
 僕も家内も生まれて初めて飼った子が(犬に子なんて擬人化して呼ぶ奴なんて馬鹿だ、と昔言っていた僕だが・・。)大型犬のバーニーズマウンテンドッグ、名前はムンだ。生後5ケ月で我が家にきた彼女はとにかくおてんばだった。だから家族みんなで考えてできるだけ情けない名前にした。それがムンだ。
 思春期のムンには手を焼いたが(本当に手が焼けるほどリードを引っ張る事も多々あった。)それなりに成長してくれた。成長しても面白い子には変わりがなかった。この種の飼い主のコメントが必ず「面白い犬です」とあるように、我が家もこの子の思い出話をする時には必ず「本当に面白い子だったねえ。」と誰かが言う。数々あるムンの伝説の中でも忘れられないのは、彼女が弁天の池を泳いだ事だろう。勿論犬も人間も遊泳禁止だ。おそらく弁天の池を悠然と泳いだ犬はムンだけだろう。真夏の暑い車中から脱走して勝手に泳ぎ出したのだが、僕がいくら「来い!」と怒鳴っても、こういう時こそ日頃の関係がでる。彼女は涼しい顔をして僕から顔を背けて泳ぎ続ける。周りで観光客の黄色い声で「きゃ〜、かわいい〜」と聞こえるが僕はそれどころではない。だって僕の隣でおじさんが「ここは神の池で誰も泳いではいけない・・・」などと僕に怒鳴っているのだ。あれから僕達は弁天の池には行っていない。
 そんなムンが7歳だった7年前の夏の今日、突然に逝ってしまった。『雷パニック症候群』だった。現在ルナピンスキーをはじめ大型犬2匹、猫3匹我が家にいるが、全てはペットショップで僕が一目惚れしたムンとの縁からから始まったようなものだ。合掌。