T.信恵というピアニスト(3)

 やはり記憶というものは曖昧なものだし物事は一方から覗いても真実は見えてこないものだと感じた。
 昨日、徳冨さん本人に連絡をとって、コンサートの演奏の批評を兼ねてこのようなブログを発信しようと思うがいいか?と問うたら快諾してくれた。ただし最初にお店に来た経緯と僕にゲスト出演を依頼した理由が若干違うとおしえてくれた。
 初めて寄ったのはたまたま通りすがりの時間があったついでであり、その時僕はけっこう酔っ払っていたらしい。そしてコンサートのゲストを依頼したのは、僕の演奏を訊いたからではなく、お店で僕がフランクが好きだと言ったからで、ただそれだけの理由だそうだ。一応訂正しておこう。ただ、その理由の方がねえ、ますます無謀な方だと思ってしまった。(笑)
 さて、コンサートで演奏する曲の合わせ練習(これを業界ではドイツ語でプローベと言っている。因みにゲネプロというのは最後の通し練習の事でゲネラル・プローベというドイツ語だ)は、通常コンサート本番とGP(ゲネプロ)は当然だが、その他は数回の合わせ練習だけだ。これはオーケストラのような大人数での練習でも同様だ。(プロのオーケストラの場合)
 理由はいくつかあるが、一つはピアニストはたくさんの演奏曲があって忙しいのでギリギリでないと曲が仕上がらないのだ。あとはギャランティー(報酬)の問題だろう。地方のピアニストはとっても良心的だが都会のピアニストだと一回の練習に付き合ってもらうだけで1万円、2万円と掛かってしまう。最近では音楽大学の学生さんすら試験の合わせ練習でピアニストに練習報酬を数千円払っているらしい。そのくらいピアニストは偉いのだ。だからフルートやヴァイオリンなど僕達のようなピアノが必要な独奏楽器の人間は、少ない合わせ練習回数で効率よくいい曲にしたいと考えている。
 さて今日のブログは、徳冨さんの話がなく全く話が脱線してしまっていると思われた方もいるだろうが、先日のコンサートの僕の評論を少しでも多くの音楽通以外の人たちに理解してもらうには、今日の話は絶対不可欠な情報となるのだ。
 さて、徳冨信恵さんというピアニストが僕とどのような合わせ練習をしていったのか、それを僕がここで語るのは、結果的に先日のベートーヴェンのピアノ協奏曲の好演につながっていると僕は思っている。