サムソンとデリラ


(ライヴィッチとルナピンスキーよ❤)
 万能なフランスの作曲家、サン=サーンスはありとあらゆるジャンル(クラシック音楽の形態で)で名曲を残している。彼のの作品にはギリシャ神話が題材になっている作品が多いのだが、フランス・オペラの大傑作であるこのオペラの題材は旧約聖書にある。
 舞台はガザ地区でサムソンはイスラエルの民衆の中にいて、デリラは彼らを抑圧していたペルシテ人の女性だ。このように書くとなんだか現在にも通じる政治的民族的な背景が見えてくるのだが、ここでは純粋に音楽を物語ろう。
 サムソンは神から巨大なる力を授かった選ばれし人間だった。そのサムソンにデリラは誘惑する。すっかりデリラの虜になったサムソンは自分の弱点をデリラにおしえてしまい、彼はすっかり力を無くし目をも潰されてしまう。最後にサムソンは神の加護の許奇跡的に力を取り戻しペリシテ人の神殿の柱を倒し自分とペリシテ人共々崩れゆく神殿ごと埋まってゆく・・・という物語だ。
 このオペラの中でも圧巻はデリラのアリア「あなたの声に心は開く」だろう。本当に官能的で美しいアリアだ。本来デリラはパリシテ人のスパイとしてサムソンを誘惑する設定になっているが、このオペラにおけるデリラは純粋にサムソンを異性として愛してしまったのではないかと思えるほど、このアリアは官能を純愛にまで変容させてしまったと勘違いしてしまうほど美しい。僕も現実にサムソンなっていれば騙されていると頭ではわかっていてもその純化した官能の虜になっていたかもしれない。だが僕は残念なことにサムソンにはなれるほどの器はない。
 さて音楽の女神ミューズにだけは見放されたくなかった僕はディオニソスから離れ、真面目に練習している。フルートの初心者であった高校生から留学時代までの約10年間の技術習得への階段を2週間かけて一段一段考えながら踏みしめながら再び登り直したような2週間だった。また堕ちてしまうのではないかという不安はいつも持っている。だが今はフルートの技術を習得していった軌跡を確認できた安堵と喜びがある。とりあえず僕はサムソンのように自己犠牲にならなくてすんだのかな・・・?
 ところでサムソンの力の源は何だったのだろうか?デリラが色仕掛けで聞きだしたサムソンの力の秘密はその長い髪にあったのだ。サムソンが寝ている間にデリラがサムソンの髪を切ってしまい、彼は力を失うのだった。
 一般女性だってその長い髪を男性の前で指に絡ませながら揺らせている仕草は、別の意味で女性の髪にも大きな力が宿っているのだと・・・つくづく感じる。