調子に乗ったあげくの果て(2)


(ルナはいつも調子に乗っています)
 緊張状態でその日のピアノ発表会を迎えた。ゲスト演奏では思い通りに吹けた。メンバーで打ち上げに行った。僕とオーボエが男性でその奥さんがその日の主催のピアノの先生、そしてファゴットの女性の4人だ。このメンバーで20年以上の付き合いになる。そんな中でファゴットの女性を交えての打ち上げは初めてだ。みんな大人だ。少なくてもみなさん僕よりも年上だ。会は楽しく盛り上がった。僕もハメを外すことなく楽しくしっかりと飲んだ。どれだけ飲んだかも覚えている。帰りはその店の近くの駅から電車に乗って2駅目でおりて小倉の家に帰る予定だった。
 電車に乗った。駅で降りた。そこまでは覚えている。それからが記憶にない。
 それが今牢屋にいる。僕が起きたのを監視カメラで見ていたのだろう。すぐに年配の警官が来た。
「起きましたか〜!」彼は明るく言った。
「あの〜私収監されたのでしょうか?」と訊いた。
「収監ではではありません。保護です。」
それからの彼の言葉を要約するとこうだ。
「駅から血だらけの男性が酔っ払って倒れていると連絡があってですね」(そんな状態だったのか・・・)
「とりあえず病院へ連れて行って治療してもらってですね」(えっ、そんなに大変な傷だったのか・・・)
「家族に迎えにきてもらえと言っても拒否されてですね」(そりゃそう。嫁さんだけは知られたくないぞ)
「ですからここへ保護したのです。」
僕は「じゃあ、帰ってもいいのですか?」と訊くと
「勿論です。荷物を確認してタクシーで帰ってください。」とその警官はとても丁寧に説明してくれ、タクシーまで呼んでくれた。帰り際に出口で中へ向いて、
「ご迷惑おかけしました。」と言って深々と礼をした時の若い婦警さんの侮蔑したような表情が忘れられない。
 結局、今回調子に乗ったあげくの果てに失った物は
・・・治療代、タクシー代、片方の靴、メガネ・・・それに今も買い続けるハイロドコロイドのパッドの代金・・・・これですんでよかったと思っている僕はまだ懲りていないのだろうか・・・