子猫物語(6)


(いよいよ子猫ちゃんの登場か?)
 ミャ〜ミャ〜という声に近づいていくと、そこは屋根裏と外に面した壁の隙間だった。彼らの姿は確認できなかったが、耳を澄ませばその鳴き声が隙間の下から聞こえる。そんなに深くはない。多分柱の間の支柱で留まっているのだろう。鳴き声からすると二匹いるようだ。「たすけて〜」と一生懸命に鳴いている。これでは僕でなくても母猫もどうする事もできない。
 僕は知り合いの設計士K氏に連絡を取り、明朝に壁を壊して子猫を助けてくれる約束をして、救った子猫二匹をバケツごと家に持って帰った。その小さな小さな子猫は一匹は母親のコゲそっくりだった。もう一匹はコゲ似の子猫よりもう一回り小さく白っぽいグレーの子猫だった。その時は深夜遅かったので子猫たちには水で我慢してもらって、翌朝早くに嫁さんと一緒に子猫用のミルクと離乳食を買いに行った。嫁さんが既にインターネットで何が必要なのか調べていたのだ。だから買い物はスムーズだった。なんだかんだ言っても嫁さんは猫好きだったのだ、という事がわかった。
 一方壁の狭間に残された子猫たちは、なかなかK氏が動いてくれず救出できない。いやK氏は動いてくれなくてもいい。大工さんでも誰でもいいのだ。その専門に頼んでくれたらよかったのだ。でもみんな日中は仕事で忙しいのだろう。何度もK氏に電話すれど言い訳してばかりだった。僕も夕方には堪忍袋の緒が切れた。実際に鳴き声が弱くなっていたのだ。
「あなたねえ、命がかかっているんですよ!昨晩、朝に来るって言ったじゃないですか!言い訳はいい!今は目の前の命を早くどうにかしてください!」
 すぐにK氏の息子と職人が飛んで来た。外から壁の一部を小さな正方形に切り取り、そこから鳴き声の位置を確認していた。そして今度はその位置の周りを大きな正方形に切り取った。職人は手を開いた穴に手をまさぐりながら「あれ〜、いないなあ・・」と言いながら少しの間探っていたその時、「いた〜」と言って取り出した小さな命は既に絶命していた。すぐにもう一匹を取り出してくれた・・・がその子猫もかなり衰弱していて鳴き声も弱弱しかった。モナカ似の白黒の柄だった。僕はその仔をずっと胸に抱きしめた。水を口に含ませても飲む力はもうなかった。僕は声を出して言った。「モナカ・ジュニア!頑張れ。うちで飼ってやるから頑張れ!せっかく助かったのだから・・・もう少しだから・・・頑張れ!ジュニア!」
 しばらくしてモナカ・ジュニアは僕の胸の中で静かに眠るように亡くなった。
 翌朝、家の庭に二匹の子猫の亡骸を埋めてやった。そこはウサギのミミちゃん、リンちゃんのお墓の隣だ。僕は線香をあげて手を合わせながらモナカ・ジュニアたちに言った。
「この世で遊べなかった分、あの世でムンちゃんとたくさん遊ぶんだよ。」
 家に戻ってムンちゃんの遺骨に手をやって言った。
「モナカ・ジュニアたちとおもいっきり遊んでやってよ。たくさんたくさん一緒に遊んでやってくれよ。」
そして、傍でミルクを飲んでいる小さな小さな二匹の子猫に言った。
「あの子達の分まで、しっかりと生きてくれよ。」
子猫たちを連れてピーちゃん先生の所へ行った。