ライ君とルナちゃん(6)


(そうそう、これこれ)
 ライ君の癲癇は下半身だけが硬直して痙攣する。上半身は意識も含めてしっかりしているものだから、尚更大変だ。僕もビックリしてしまうのだけど、本人の方がよっぽどビックリしている。立ち上がろうと前足をバタバタと激しく動かそうとする。僕が上半身を羽交い絞めのように強く抱きしめてなだめる。そのうちに何もなかったように動けるようになる。ライ君のハッハッハという荒い息づかいだけが部屋に響く。
 そのような状態になる事は頻繁ではない。それから2,3ケ月後だったり1年以上起きなかったりだ。
 何度目かの癲癇を起したある時、僕は気付いた。僕は山口の自宅以外に小倉にレッスンを兼ねて泊まれる家があった。僕は日帰りでも泊まりでもだいたいライ君とルナちゃんを連れていく。彼らが僕とのドライブを楽しみにしている事もあるのだが、彼らが自宅にいないと嫁さんが大好きなモナカがリビングで自由にくつろげるからだ。だから彼らと移動する事はモナカの為でもあった。そころが移動したレッスン用の家は自宅ほど広くはない。ライ君とルナちゃんの距離は当然近くなる。そんな時にライ君の癲癇が起きている事に僕は気付いたのだ。過去8回程度起こした癲癇のうち3回はその家で起きたのだ。ひと月3日、4日程度しかいないのだから確率からしたらけっこう高い。
 ピーちゃん先生の言葉を思い出す。(ライの癲癇はルナちゃんの影響もありますか?)「それも原因の可能性があると考えていいでしょう。」
 そこで僕は小倉の家では、進入禁止だったレッスン室にライ君だけ入室を許す事にした。勿論レッスン生の許可を得てだが、嫌だというレッスン生はいない。だってライ君は本当におとなしくレッスンの間4畳半の狭いレッスン室の隅で丸くなって静かに寝ている。
当初ルナちゃんもレッスン室に入りたがっていたが今では慣れてリビングでおとなしくしている。
 その成果があってライ君は小倉で癲癇を起こす事は無くなった。そしてもう2年以上ライ君は癲癇を起していない。
 今もライ君とルナちゃんは広いリビングの端っこと端っこで離れて横になって寝ている。