ペットロス症候群


(僕がいるでしょう)
 ムンちゃんがいなくなって、しばらくの間は食欲がなくなった。あれだけの存在感だ。しかも突然亡くなるなんて予期もししていなかったのだ。息をするのも苦しかった。寂しくなった部屋を眺めるとムンちゃんの幻影が見えた。道を歩いていると僕の前をムンちゃんがシッポを振って歩いている、ように見えた。モナカの「にゃ〜」という鳴き声が虚しく聞こえた。そうなのだ。僕は完全にペットロス症候群に陥った。真夜中にムンちゃんのアルバムを見ては一人大声で泣いた。
 車にムンちゃんが乗っていない事実を受け入れるにはもっと時間がいった。
 ムンちゃんがいなくなって、我が家の庭に野良猫が来るようになった。窓越しでモナカと野良猫が「グニャ〜」と野太い声で威嚇しあっている。ムンちゃんがいた時はこんな事はなかった。本当に情けなくなった。実際に、ムンちゃんがいた時は家の鍵を掛けて外出をした事がなかった。それが人見知りのでかい猫一匹と大人しいウサギ二匹しかいなくなったのだ。外出する時は必ず鍵を掛けるようになった。
 少しでも慰めになるかと大型ショッピング内にあるペットショップにもよく出かけた。ミニチュアダックスやチワワ、ミニチュアプードルなどの可愛い仕草を見ても溜め息しか出てこなかった。
 そんなある日、そのペットショップの受付のスペースで結構大きな犬が繋がれていた。その犬はとても人懐こかった。若い女性の店長さんに、何という種類かと訊くと、「ベルジアン・タービュレン」だという。何度聞いてもなかなか覚えられなかった。そこのペットショップはお店の犬に名前を付けていた。ベルジアン・タービュレンにはライ君と名付けられていた。それが僕達とライ君の出会いだった。