さよなら、ムンちゃん(1)


 僕達が旅行へ出かける時に、ムンちゃんを預けるペット店を決めていた。そのお店を決めるまでいろいろなペット店を視察した。ところがほとんどのお店は小型犬を対象とした仕様しかなかった。まず寝る場所のケージが狭いし、散歩もどこまでしてもらえるのか、説明だけでは信用できなかった。ドッグランも大型犬では狭かった。親バカだ。
 そんな折、県外でいいペット店が見つかった。そこは広い大型犬専用の個室があり温泉入浴もさせてもらえた。だから僕達はムンちゃんを預けた時にトリーミングもお願いした。ムンちゃんがトリーミングの台に乗せられてドライヤーをかけられている所を窓越しに、ムンちゃんに見られないように電柱の陰から見守ったりした。本当に親バカだった。
 ムンちゃん7歳の暑い夏、僕達は一家で京都へ行く事にした。当然、いつものペット店へ預けた。そして雷パニックの処方薬も渡した。
 京都旅行は二泊三日だった。三日目の朝、親バカの僕はペット店に、「ムンちゃんはいい子にしていますか?」と電話した。すると女性の店員が、
「それが、大変なんです。ムンちゃんが出ようとしたらしく口が血だらけなんです。今お医者さんに診てもらっています。」という返事だった。
 僕はその時は深刻に考えていなかった。嫁さんに、
「ムンちゃん、また悪さして口から血が出ているみたいだよ。バカだねえ。」と話して笑っていた。
 すぐにペット店から僕の携帯に電話があった。電話の向うは男性だった。店長だった。泣いていた。
「ムンちゃんが今亡くなりました。」
 僕は頭が真っ白になった。嫁さんに「ムンちゃんが死んだんだって。」と言うだけが精一杯だった。胸にポッカリと穴があいた状態を実感した。とにかくすぐに戻りたかったが新幹線の時間が決まっていた。僕達は時間まで、知恩院、東寺等へ行った。僕はとにかくお祈りした。間違いである事を祈りながらも、ムンちゃんの冥福を願った。その日は何も食べられなかった。夜ムンちゃんを迎えに行った。横たわっていたムンちゃんはズッシリと重かった。車へ乗せて自宅へ戻った。ムンちゃんのお通夜をした。フォーレのレクイエムを聴きながら一晩中寝ないでムンちゃんを見守った。ムンちゃんを送る二重奏を創った。