ムンちゃん物語(9)


 普段は温厚でだいたい部屋の中で伏せているか、横になって寝ているムンちゃんであったが、雷の怖がり方は尋常ではなかった。
 雷の気配がすると、突然に息づかいが荒くなりベロを長く垂らして涎をダラダラと流し始める。それから挙動不審になる。とにかく落ち着きがなくなる。押し入れに入ったかとおもえば、すぐに出てきて机の下へ潜り込む。かとおもえば今度は無理矢理部屋のドアを開けようとする。
 僕達がムンちゃんを抱きしめて、大丈夫だよとなだめてもすぐに僕達の腕を振り切ってウロウロと徘徊し始める。これにはピーちゃん先生も、家の人がいるのに恐れて動き回るのは珍しいね、と言われた。そして薬を処方して頂いたのだが、これがまたやっかいだった。その薬というのは、犬の分離不安症候群に処方する薬だそうで、普段は飼い主が家からいなくなると不安がる犬に処方する薬で、意識が朦朧とするらしい。薬が効くまでに一時間かかり6時間は効力があるらしい。分離不安なら外出時を考えて薬を投与すればいいが雷となると、鳴りだしてから投与しても遅い。雷注意報が出たからって投与すると、結局雷はおこらなかったりする。しかもその時ムンちゃんがボ〜としていたなあという実感はなかった。それに一錠400円程度する薬を二錠も飲ませなければならなかった。
 一番最悪のケースは、外出していて雷が鳴った時だ。慌てて家に帰ると時すでに遅しだ。襖は破き倒され、押し入れの中はぐちゃぐちゃになり、ガラスは割られるなど、もう家の中は無茶苦茶だった。
 小さい頃も雷を怖がったが、これほどではなかった。押し入れの中で震えている程度だった。歳を重ねる度に雷へのパニックが激しくなっていった。
 そんななかで悲劇が起った。