ピーちゃんが病気になる(2)


「麻酔は脳の大きさによって効き方が違うので、私は万が一悪い結果になっても了承して頂きたい。」
 私が「万が一はどの位の確立になりそうですか?」と訊くと、先生は「まあ百体に一体でしょう。」と答えてくれた。
 私達は安心してピーちゃんを預けて帰った。
 ところがその晩先生から電話があって、ピーちゃんは癌だったと知らされた。
「開腹してみましたが腸が腫瘍で完全に癒着していて、ウサギの腸は紙風船のように破れやすいので摘出は諦めました。とりあえず抗がん剤を点滴で投与していきましょう。」病院を訪れた僕達に、先生は詳しく説明してくれた。
 点滴を投与しながら僕は先生に訊いた。
「あとどの位生きられそうですか?」
「今はなんともいえないが、早くて一週間後は覚悟していてください。」
 僕は嫁さんが泣くのを初めて見た。
 それから毎日抗がん剤の投与が始まった。毎回一万円掛かるのは懐が痛かったが、点滴の間、先生の含蓄のある話を聞くのは楽しかった。先生は愛想はなかったがよく話をしてくれた。
 そして奇跡的な事が起きた。
 毎回少しずつ小さくなっていたピーちゃんのお腹の腫瘍が、一週間後には僕が触ってもわからない程に無くなったのだ。
 先生は一言「もう大丈夫でしょう。」とニヤッと笑って言った。初めて先生が笑う顔を見た。
 その日から僕達は先生を『ピーちゃん先生』と呼び全幅の信頼を寄せている。この出会いがなかったら、山田家のペットの系譜は全然違うものになっていた。
つまりルナちゃんとも出会えなかっただろう。
 ピーちゃんと僕達はそれから3年間幸せな関係で過ごした。
 7年の寿命が短かったのかはわからないが、この闘病を乗り越えての7年間に満足している。
 ピーちゃんは最後に嫁さんの腕の中でコトッと息を引き取った。