第四幕 第一場(1)

 第四幕 第一場『パーティーの会場で』
 軽妙な音楽が流れてきた。第四幕への前奏曲だ。
 緞帳が舞台の中央から左へ静かに開いた。舞台はまだ真っ暗なままだ。
 オーボエとホルンがコミカルな旋律を掛け合い奏し始めた時、舞台に向かって右側に置かれたグランドピアノにスポットライトが当たった。
 ピアノ椅子には一人の男が座っていた。男は鍵盤に置いた両腕を枕にして伏せていた。
 その男の動きは明らかに挙動不審だった。突然ヌクッと首を上げたかと思いきやピアノを叩きだす。そしてまた鍵盤に今度は直接顔を埋めるように寝てしまう始末だ。酔っ払っているらしい。その男は・・・赤ハリ先生だった。
 第四幕への前奏曲が終わると同時に舞台全体が、パッと明るくなった。
 場面は華やかなパーティー会場のロビーだった。
 全く違う曲調の音楽、中庸なテンポの弦楽合奏の曲になった。
 舞台に向かって左手から紺のイブニング・ドレスを着た一人の女性が現れた。安藤多賀子、タア子だった。
 彼女は舞台の中央へ進むと歌いだした。そして更に赤ハリ先生の方へ歌いながら向かった。

タア子 今日は何て素敵な結婚式だったのでしょう。   パーティーも最高でしたね。
    大丈夫ですかあなた?ちょっと飲みすぎじゃ   ないの。しっかりしてよ。
    今日の主役はあなたではないのよ。しっかり   と二人を見守ってあげなきゃいけないのでしょ   う。さあさあ起きて。しっかりしてよ。ねえ、   あなた。

 タア子は赤ハリ先生を立ち上がらせようと促している。
 曲はゆったりとしたアリアに変わった。
 そこへ真っ白な美しいドレスを着た前田信代、ノブチンがソプラノで歌いながら登場した。