第四幕 開演前

 会場内に開園を知らせる鉄琴(ヴィブラフォン)による心地いい現代音楽が10秒程響いた。それに続いて落ち着いた女性の声で場内アナウンスがあった。
『ロビーにおられるお客様、間もなく第四幕が始まりますので、客席にお戻りください。』

 会場は満員だった。最終幕の期待でざわめいていた。
 舞台上は深紅の幕が下りていた。緞帳と呼ばれる重厚な幕だ。
 オーケストラ・ピットには楽団員が揃っていた。各々が勝手に音を奏していた。
 ブザーが鳴った。もうすぐ指揮者が現れるという合図だ。
 オーケストラ・ピット内ではオーケストラ団員が静かに指揮者を待っていた。
 暗いオーケストラ・ピット内で団員達の楽譜を照らす小さなライトが、真っ暗な会場の中で星のように輝いていた。指揮者の譜面台然りだ。
 会場全体が次第に静かになってきた。
 会場全体が静まりかえったそのタイミングで指揮者が暗いオーケストラ・ピットに颯爽と現れた。会場は大きな拍手に包まれた。指揮者が指揮台にのると、その拍手は止んだ。
 指揮者は開いてある分厚いスコアから一枚だけめくって、徐にタクト、つまり指揮棒を構えた。
 と、ほぼ同時にオーケストラ団員は一斉に楽器を構えた。
 指揮者がタクトを振り下ろした。第四幕が始まった。