第三幕第一場第七夜(14)

 タメ池が赤ハリ先生に唐突に訊いた。
「赤ハリ、昔コマーシャル・ソングを作ったとうちに言ってたよねえ?その分の著作権料は入ってこなかったん?」
(この娘、右肩上がり医院のコマーシャルの事を言っているのかしら?)
 私がそう思ってタメ池を見てから赤ハリ先生を見ると、赤ハリ先生は苦笑しながら神杉さんを見ていた。
(図星だった。)
 その後、赤ハリ先生を横に見るカウンターでは、私とタア子、ノブチンとノブタが談笑し、正面を見るカウンターでオロチとタメ池が談笑した。神杉静江さんは赤ハリ先生と静かに話をしていた。こうしてみんなの歓談は深夜まで続いたのだった。途中で他のお客さんが入ってくる事は・・・勿論なかった。

 みんなが帰った後のお店は、特に静寂を感じた。製氷機や冷蔵庫の音がやけに騒々しく感じたが不快ではなかった。お店がこんなに賑やかになる事は滅多にないので少々疲れたが、心地いい疲れだった。今夜は全員の顔を見られたし話もできた。こんな事はピアノ教室の発表会の打ち上げパーティーの時以来だ。楽しい時間だった。神杉静江さん、信代ちゃん、信田君、山多君、それにあの賑やかな二人、タア子に池野響、それに権藤さんも顔を見せてくれたなあ・・・本当に楽しい時間だった。
 私はいつの間にか、カウンターに伏して眠っていた。   (第三幕 終わり)