第三幕第一場第七夜(13)

 ノブタの話を黙って聞いていた神杉さんが言った。
「先生クラシックでよろしいのではないですか。わたくしは音楽が流れていなくても、ヨーロッパのレストランみたいにお店の中が静かでいいと思いますのよ。時々店内がお客さんの合唱で盛り上がれば、楽しくなってよろしいのではないかと思いますわ。」
「ところがですねえ、今の神杉さんの話の内容にも著作権が掛かるようなのです。何故だかわかりますか?」赤ハリ先生がみんなに向かってそう訊くと、ノブタが「ああっ!」と声を発して言った。
「先生、もしかして店内のお客さんが歌を歌っても著作権が掛かるのですね。」
 赤ハリ先生の「そうなのです。」という返事に、店内がまた少し騒然となった。少し落ち着いてから赤ハリ先生は言った。
「営利が発生する店内ではどのような状態でも、どのような形態でも著作権が発生するのだそうです。勿論著作権に該当する曲にですが。」
「だったら、うちが前ここに来てお酒のコマーシャル・ソングを3曲ばかり口ずさんだやつも、その著作権ってやつに引っ掛かるの?」とタメ池が訊くと、赤ハリ先生は、
「厳密に言うとそうなるのです。ただコマーシャル・ソングは企業が音楽の使用権利を買い取っているでしょうから大丈夫だとは思いますよ。だってコマーシャルが流れる度に著作権料が掛かれば莫大な値段になるでしょうから・・・もしそうなれば、その作曲家は一曲だけで莫大な財産を築けるでしょうね。」と言った。するとノブチンが、
「そういえば、視聴率を稼いでいる朝の連続テレビ小説の音楽を作曲した人ねえ、その曲だけで豪邸を建てたらしいわよ。だってあの番組、朝にデジタルとBSの二回放送され、お昼に再放送が流れるでしょう。一日三回分の著作権料が入ったみたいよ。それが日曜日以外の毎日放映されていたのですもの。しかもその曲が、全国のアマチュア・オーケストラやブラスバンド、あるいやクラシックコンサートのアンコールとして演奏された訳だから。それに楽譜もピアノ用やオーケストラ用等、様々な形態の楽譜が出版された筈よ。」そう言うと、またまたノブタが、
「羨ましい。俺も作曲家になればよかった。」と言ったが、これもみんなから黙殺された。