第三幕第一場 第七夜(8)

 結局その後、私達は深夜まで長々と歓談した。その中でもみんなで一番盛り上がったのは、赤ハリ先生が著作権協会の人がお店に来た話をした事だった。
「チョサクケンキョウカイ?」素っ頓狂な声をあげたのはタメ池だ。
 それを説明したのは、赤ハリ先生ではなくノブタだった。
著作権、つまり執筆された物や作曲された物の権利を守る協会です。音楽で例えると、ある作曲家の曲が他の人に無断で利用されないように、その権利を作曲家に代わって守っている協会なのです。」
「権利って、曲が盗まれないようにするっていう事?」タア子が訊いた。
「そうですよ。曲が盗まれないようにという意味は、勝手に演奏してもいけないという事でもあるのです。」ノブタが答えると、今度はタメ池が訊いた。
「え〜っ、音楽って勝手に演奏してはいけないの?」
「勿論、著作権の対象ではない曲もたくさんありますよ。それは作曲家が亡くなって50年経っているような古い曲の場合かな。」
「そうなんですよね〜。」オロチが話に参加した。
「僕達のオケは決して営利目的ではないし、団員から2万円ずつ会費を集めてやっと開催できるのに、入場料を取るからって、しっかり著作権料を取られているんですよ。」
 それにタメ池が言った。
「じゃあ入場料を取らなかったらいいじゃん。団員の会費だけで運営するんだよ。」
「それでもダメなんです。」
「え〜、何故ダメなの〜?」
「それは指揮者にギャランティを払っているからです。演奏会によって指揮者が営利を得る結果になっている限り、やはり著作権料が掛かるのです。」
「ふ〜ん、なら指揮者には、ギャラではなく交通費として渡せばいいのに。」
「30万円の交通費なんてありえませんよ。それに指揮者は東京在住だし。」
オロチのこの一言に一同驚きの声を上げた。ノブチンが黙っていなかった。
「指揮者のギャラって30万もするの?」
「勿論それは本番のギャラで、練習では一回3万円掛かります。学生オケの指揮者としては安くはありませんが高くもない筈ですよ。」
「いいなあ、俺も指揮者になればよかった。」というノブタの声を、一同黙殺した。