第三幕第一場 第七夜(5)

「ところでノブタ、今日は何故来たん?」
 言葉に窮したノブタに救いの手を伸ばしたのは、意外にも神杉静江さんだった。
「わたくしがお呼びしたのですよ。実は信田様はわたくしの夫の病院を担当して頂いているのです。病院というのはいろいろな訴訟問題が起きますので、弁護士の先生をいつも顧問に置いていますの。」
「ノブタが顧問?」タア子が素っ頓狂な声をあげた。
「いいえ、顧問は信田様の所属事務所の先生で、実質の担当者が信田様ですのよ。」
「へ〜、面白い縁だったのですね。その縁で赤ハリの所へ習いに来られたのですか?」
タメ口のタア子が神杉静江さんには丁寧な物言いになっていた。
「いいえ、わたくしが信田様と知り合ったのはこの教室が初めてで、主人の病院が信田様のお世話になりだしたのはその後でした。本当に偶然でしたのよ。」
神杉静江さんはそう言って、一人別側のカウンターに座っているノブタに自分の席と代わるように促しながら更に言った。
「わたくしはここでゆっくりと先生とお話しするから、若い貴方達はそちらで歓談したらいいわ。」
 結果、ノブタはノブチンの隣に座る事になった。
 タア子はノブチンに、「私と席代わろうか?」と言ったが、ノブチンはタア子に軽く会釈で返した。
(イエスなの?ノーなの?これだから日本人はわかりにくい!と、タア子も思っただろう。)