第三幕第一場 第七夜(4)

 そこへタア子が訊ねた。
「じゃあヤクザと呼ぶのは何故なの?」
「ヤクザねえ・・・」みんなが一様にヤクザ、ヤクザと言っていたその時だった。一人の男がお店に入ってきた。ノブタだった。彼はお店に入るなりみんなに、
「なんだか物騒な名前が連呼されているねえ。ヤクザがこの店に来たのですか?」と、みんなを見回しながら大きな声で言った。
「いえいえ、・・・」と、ノブタに話の推移を説明したのはタア子だった。
「ああ、それなら俺知ってるよ。」ノブタがあっさりと言ってのけたので、みんなは異口同音に「え〜」と言いながら少しばかりの称賛を彼に送った。
「いやいや、見くびってもらったら困りますよ。俺を誰だと思っているのですか?」
(野豚だ!)私はそう心で叫びながらタア子を見たら彼女も私を見た。私達はお互いにニヤッと笑った。
 その野豚は真面目な顔をして話を続けた。
「ヤクザの語源は数字の8(ハチ)9(キュウ)3(サン)なのです。これは花札の賭け事に由来するのですよ。出た目を足して一桁目の数字が高い方が勝ちというゲームで、三回カードをめくる事ができるのです。最初に8が出て、次に9が出たら、次のカードはめくってもめくらなくてもいいのですが、さあさあ、みなさんならどうしますか?」
 私はノブタの回りくどい説明に少しイラッとしたが、タア子は喜んで参加した。
「そうねえ、8と9を足したら17かあ・・・次に1か2が出なければいけないのね。・・・よし、私ならもう一枚引いて勝負するわ。」
 このタア子の言葉に一同、え〜?という声あり。ノブタのみ冷静に話を続けた。
「タア子さんこそヤクザだね。普通の人の感覚なら、17になったら止めておくでしょう。ところがヤクザは勝負したがるのです。そして3が出て合計が丁度20、つまりドボンという訳です。その数字を並べて893、つまりヤクザです。だからやくざ者とはダメにするような奴という意味があり、ダメな奴という意味でもあるのです。」
 赤ハリ先生以外のみんなはノブタに感心しきりだった。ノブタも少し嬉しそうだった。
 そこへタア子の冷たい一言が飛んできた。