第三幕第一場 第七夜(3)

 タア子は「ふ〜ん、全然わからないや。で、赤ハリ はわかったの?」と訊いた。
「いえ、その時はどちらも全くわかりませんでした。でもすぐにインターネットで調べました。確定的ではありませんが面白い説がありました。みなさんで少し考えてみませんか?」
「私は全然見当もつかないわ。だってポチの質問なんて、海にいる八本足のあの生き物がどうしてタコっていう名前でしょうか?って訊かれているようなものでしょう。そんなのわかる訳ないわ。」
このタア子の発言には、さすがに冷静な私も、飲んでいたカシスオレンジを吹きこぼす程むせながら笑ってしまった。(タコがタコの名前の由来がわからんと言 っているわ・・・)
「何よ!何が可笑しかったのよ。私、変な事言ったっけ?」
 タア子の抗議は尤もだ。私はポチの話でなんとかはぐらかした。
「タコの名の由来はわからないけど、ポチって、関西では小さな袋をポチ袋って言うのでしょう?もしそれに関係があるのなら、ポチは小さいっていう意味では?・・・ああ、そうだわ、フランス語で小さい事をペティって言うでしょう。それに関係があるのではないかしら。ペティがペチになってポチに変わっていったとか・・・ちょっと無理があるかなあ?」
私がそう言うとタア子は、
「う〜ん、でも小さいのがポチだというのはわかるけど、赤ハリん家のあのバカでかい犬もいるじゃない。そんな犬もポチなんでしょう?」と言い、ノブチンがそれに答えた。
「今の多賀子さんの話でわかったわ。今でこそチワワとかミニチュアダックスなんて小犬もいるけど、もともと洋犬というのは大きかったのよ。プードルだって大きかったのよ。だったらポチの語源がフランス語のペティにあるのなら、横浜や神戸でフランス人が見た日本犬、例えば柴犬を見て『ペティ〜❤』と言ったとしてもおかしくはないわね。それを聞いた日本人が『ほお〜、犬の事をあっちの国ではポチというのか  い。いい呼び名じゃなあ。』と思って、それが日本中に広まったのではないかしら。」
 さすが、赤ハリ通信に童話を寄こしたノブチンだ。感情豊かなその話しぶりは、彼女のピアノ演奏にも活かされているようだ。私がそう思っていると赤ハリ先生が感嘆したように、
「さすが信代ちゃん、正解ですよ。本当にその通りなのです。」と言った。
 赤ハリ先生がノブチンを信代ちゃんと言うのは、彼女がそれだけ小さい時から赤ハリ先生の所にピアノを習いに通っている証だ。だが彼女も40歳に近い。