第三幕第一場 第六夜

「そのラッキョウはですね、近くの商店街の有名な漬物屋の主人らしいのです。その彼がお店に入るなりこう言ったのです。『おう、この店暇そうだなあ。何かこの店のお薦めを出してくれ。』と。それで私は、メニューにあるのは全部お薦めですよ、と言ったのです。すると彼は『その中でも一番のお薦めを出してくれ。」と言うのです。私は揚げだし豆腐を出したのですが、彼は箸を付ける事もなく、豆腐と器が合っていない、と非難しはじめたのです。それはまだ序奏みたいなものでした。その後は、ビールを注げと言っては、ビールの向きが悪いとか、唐揚げを頼んでは、付き合わせのレモンの切り方がなっていないとか、何から何まで批判の連続でした。それでもそこまではいいのです。私が勉強になる様な事を教えて頂きましたから。だけどだんだんと批判がエスカレートしはじめてきたのです。彼は、お店のディスプレイから飾ってあったお祝いの花にまで文句をつけはじめ、私がお昼にサングラスをかけ買い出しに行くのはダメだと言われた時はさすがにキレそうになりましたね。その挙げ句にですよ。支払いの時に、今は金がないから明日自分の店まで取りに来いなんて言ったのです。そいつは3000円そこそこのお金すら持たずに私の店に来ていたのです。しかもこう言ったのです。
 『取りに来ても俺は配達に出ていないかもしれない が、30分も待っていれば戻るから待っておけ。』だって。さすがの私も立腹しましたよ。ですからまだ取りに行っていません。」
 #この小説はあくまでもフィクションです