第三幕第一場 第六夜(2)

「本当にドビュッシーのような風貌の方が来られたのですか?赤ハリ先生。」
そう質問したのはノブチンだった。
「いいえ、風貌で言えばラヴェルに近いでしょう。」
この赤ハリ先生の言葉で、ラヴェルの顔を思い浮かべられないのは、ノブチンの隣で???なる顔をして座っていたタア子だけだろう。
 下を向いていたノブタが、何とかフォンなる携帯を持ってタア子を中心にしてラヴェルの顔写真を見せてくれた。その流れで私達の隣、具体的に言うと私の席は隅だったので、三席隣のタア子の隣に座ろうとしたノブタにタア子は、
「はいはい、ラヴェルはわかったから、さっさと自分の席に戻ってね。」と戒めた。
 そのタア子が赤ハリ先生に、
「それで、このラッキョウみたいな顔をしたおっちゃんが何をしたの?」と訊いた。
 赤ハリ先生は、そのラッキョウ顔なる人物に、よほど腹を立てていたのだろう。普段のような穏やかな口調を装っていたが、少し語気を荒げているようにも感じた。