第三幕第一場 第六夜(1)

   第六夜『うるさい客』
 その次の金曜日は私とタア子の間にノブチンが座っていた。私がノブチンのメールの童話に感動して、強引に誘ったのだった。最初ノブチンは私の誘いを固辞していたのだが、赤ハリ先生のお店はお客さんがいないからと説明したら、それならと言って来てくれたのだった。ただ、少し時間が経った後にノブタがお店に来たのは予定外だった。どうやら以前の『赤ハリの金曜日の会』が楽しくて味をしめたようだ。しかもL字カウンターの片側に一人で座るのは寂しかったのだろう。なんとオロチ君を呼び出していた。オロチ君は貧乏学生だったので、おそらくノブタは金に糸目をつけず、オロチ君に「俺が奢るから」なんて言って誘いだしたのだろう。私としてはそんな事より、金曜日の夜なのに赤ハリ先生の弟子しかいないこのお店の現実が気がかりだ。(そういう私も、お店にお客さんはいな いからと言ってノブチンを誘ったのだが・・・)
 そんな私の心配を気にするでもなく、たんたんとグラスを洗っている赤ハリ先生にタア子がいつものように訊いた。
「今週は誰か面白い客は来た?」
「はいはい、特別に印象的な方が来られましたよ。」
赤ハリ先生がそう言うと、ノブタが言った。
「特別な印象ならドビュッシーみたいな方ですね。」
 勿論ノブタの言葉に誰もが無視した。と言いたかったが、オロチが反応した。
「信田さん、そのジョーク面白くないですよ。」
(おいオロチ、面白くないからこそ黙殺したらよかっ たんだよ。)
 ところが今晩はいつもと同じ顔ぶれではない。当然話の展開が違って然りなのだ。