第三幕第一場 第五夜(3)

 ある日、ハリねずみはドブねずみに言いました。
 「おかあさんがね、言ったんだ。
  僕を抱きしめてくれた友だちが、ほんとうの友だ  ちなんだよって。」
 ドブねずみの子どもは、
 「なんだ、かんたんだよ。こうすればいいのか    い。」そう言って、ハリねずみの子どもを抱きし めました。
 ドブねずみの子どもは、心の中で『痛い』とさけび ました。
 でもけっしてハリねずみをはなしませんでした。
 するとどうでしょう、ドブねずみは痛みがだんだん と感じなくなってきました。
 ハリねずみはおとなしくドブねずみに抱きしめられ ていました。

 ハリねずみは、自分のせいで友だちが血を流してい るのをわかっていました。
 その血で、自分のからだが赤くそ染まっていくのも わかっていました。
 でもハリねずみは、けっして友だちからはなれませ んでした。
 だって自分を抱きしめてくれたほんとうの友だち  は、目の前にいるドブねずみだけです。

 ハリねずみはドブねずみに言いました。
 「ねえ、痛くない?はなれてもいいんだよ。」
 ドブねずみはいいました。
 「痛くはないよ。僕は目が見えないからこうやって  からだで友だちを感じていたいんだ。」
 ハリねずみはうれしくて涙がとまりません。
 ドブねずみはハリねずみに言いました。
 「僕、眠くなってきた。
  もし君が、僕のおとうさんとおかあさんに会った  ら、こう伝えて。
  僕はほんとうの友だちを見つけて、笑いながら眠  った、と。
  僕のおとうさんとおかあさんは、きっと笑いなが  ら君の話を聞いてくれるよ。」
 ドブねずみはそう言うと、息をすることもなく眠り ました。

 ハリねずみは、ドブねずみをだいたまま泣きまし  た。
 その涙はまっ赤でした。
 ハリねずみのからだはドブねずみの血でまっ赤に染 まっていたのです。
 ハリねずみの子どもは、まっ赤なからだを一生洗お うとしなかったそうです。
 (第五夜 終わり)
#3月17日までお休みします。ごめんなさい。
 次の連載は、3月18日(月)からです。