第三幕第一場 第五夜(1)

 第三幕第一場 第五夜『ノブチンからのメール』
 その金曜日の次の日の夜、ノブチンから『赤ハリ通信』宛に長いメールが入っていた。正確に言うと、メールではなく物語が書かれていたのだった。
『 みなさんこんばんわ。
  第一回の赤ハリプロジェクトで話題になった「赤 いはりねずみ」の物語を聞いて、私はこの度、別の 角度から童話を作ってみました。眠れない夜にどう ぞ目を通してみてください。

   黒いドブねずみと赤いハリねずみ
 そのドブねずみは、おとうさんとおかあさんの愛情 につつまれて生まれてきました。
 それはそれはかわいい子どもでした。
 その子が笑っていても、泣いていても、いたずらを しても、おとうさんとおかあさんはいつもいつも笑 っていました。 
 ドブねずみの一家は、ほんとうに幸せな時をすごし ました。
 その幸せな家庭の中で子どものドブねずみは少しず つ成長していきました。
                         ドブねずみの子どもは家の外の世界を知りませんで した。
 ある日、ドブねずみの子どもは、おとうさんとおか あさんに、外で遊びたいと言いました。
 おとうさんもおかあさんも反対なんかしません。
 笑って「いっておいで」と言いました。

 外にはいろいろな子どもたちが遊んでいました。
 でも、ドブねずみの子どもが近づくと、なぜかみん な逃げてしまいました。

 家に帰ったドブねずみの子どもが、おかあさんにそ のことを話すと、
 おかあさんはそれをおとうさんに話しました。
 するとおとうさんは笑いながら言いました。
 「友だちは時間をかけてゆっくりとつくるものだ   よ。お前がいつも笑顔でいたら、いつかほんとう  の友だちができるさ。」
 しかしドブねずみの子どもになかなか友だちができ ませんでした。
 でもドブねずみの子どもは、おとうさんの言ったこ とをまもって、いつも笑っていました。

 ある日、ドブねずみの子どもは頭がクラクラしてめ まいがすると、おとうさんとおかあさんに言いまし た。
 おとうさんは子どもをだいてお医者さんの家をまわ りましたが、なかなか診てくれるお医者さんがいま せんでした。

 おとうさんは何日もかけて、遠くのお医者さんをさ がしました。
 やっと診てくれたお医者さんはハツカねずみのお医 者さんでした。
 でもその時にはもう手遅れでした。
 ドブねずみの子どもの目は見えなくなってしまった のです。
 その日はドブねずみの一家にとって特別な日になり ました。
 その日からドブねずみのおとうさんとおかあさんか ら笑顔がなくなりました。