第三幕第一場 第四夜(2)

「『マスター、キープしたいのだけど一升瓶ででき  る?』と彼が訊いてきたので、私はキープは900MLのハーフ瓶だけです、と言ったのですが、その方は『じゃあ一升瓶でキープするから次までに買ってお いて。』そう言ってその日はビールを一杯飲んで帰ったのです。」
「それでどうしたの?その客はまた来たの?」
「ええ、その三日後にその方はまた来店してくださいました。」
「それで一升瓶は用意していたの?」
「ええ、ダメでもお店用に使えますから一応用意しておきました。」
「だったらよかったじゃない。」
「それがよくないのですよ。私が一升瓶を差し出すと、その方は『今お金が無いから支払いはまた今度に するけど、今これを飲んでいい?』なんて言い出すのですよ。さすがに私は料金を頂かないと出せません、と言いましたけどね。」
「で、その客はどうしたの?」
「また今度払うからそれはキープしておいて、と言って帰りました。」
「赤ハリは人がいいんだよ。一杯奢ってもらったからって、そんなサービスしていたら店がもたないよ。もともと一升瓶のキープはないと言ってやっとけばよかったのよ。」
「そうですねえ・・・一応その方に言ったのですがねえ・・・」
「で、その一升瓶はどうしたの?」
「あそこにあります。」
と言って赤ハリ先生はキープ棚を指さした。
 そこには、けっして多くないキープの瓶達に雑じって、一本だけ大きな瓶が鎮座していた。
 それ以降、彼が赤ハリ先生のお店に顔を出す事はなかった。
 第四夜 (終わり)
 #この小説はあくまでもフィクションです