第三幕第一場 第四夜(1)

 第四夜『面倒臭い男』
 次の金曜日は寂しいかぎりだった。赤ハリ先生のお店にお客さんがいなかっただけではない。先生には失礼だが、このお店の中でお客さんを私達は見た事がなかった。そして今晩は、いや今晩もどうやらタア子と私の二人だけのようだった。
 いつものタア子のセリフから会話が始まった。
「んで赤ハリ、今週は面白い客はいたの?」
「面白いかどうかは別にして、困ったお客さんはいました。」
「へ〜、どんな客?」
「その方が最初に来られたのは月曜日でした。
 『おう、今日は何もいらん。トイレ貸せ!』と横柄 に言ってトイレに入りました。
 私はヤクザかと想い、かなり緊張しました。その方がトイレから出ると今度は、
 『ちょっと、タクシー呼んで!」と一言。
 私は本当にビックリしました。こんな変な人もいるのかと感心すらしました。」
「ちょっと、感心するのではなく、そんな客はもう店に入れてはいけないよ。それでその客はそれっきりもうこなかったんでしょう?」
タア子が憤慨したような口調でそう言うと、赤ハリ先生は言った。
「それが、その方は次の晩もこられたのですよ。」
「え〜、当然追い返したんでしょうね?」
「そんな事はできませんよ。お客様ですから。」
「飲まず食わずトイレだけ使ってタクシー呼ばせて帰るだけの奴がなんで客なのよ。」
「それが次の晩は少し違ったのです。その方は店に入るなりこう言ったのです。
 『昨夜はゴメンね。酔っていたから本当にゴメンね。マスター一杯飲みいな。奢るから。』って。」
「へえ〜、結構いい人じゃない。」
「それがそうでもないのです。その後こんなやりとりがありました。」