第二幕第二場(16)

「これで雑貨はメドがだった訳ね。んで他に必要な物は何かあるの、赤ハリ?」
 タア子の質問には答えずに、赤ハリ先生は次の皿をみんなに出しながら言った。
「これは揚げだし豆腐です。近くの商店街から鰹節と豆腐を仕入れました。出汁は鰹節だけではなく昆布を使った上に鯖節まで使っていますから美味いと思いますよ。
 私がこのお店に決めて準備を始めていた時、実にいろいろな業者が出入りしました。私としては本当に驚きでした。頼みもしないのにこんなにいろいろな業者が来る事の驚きと、人通りの少ないこんな路地裏にまでリサーチして営業に来るなんて、いつも自宅に籠ってレッスンしたり練習していた私にとってはある意味感動的でした。
 その中でも酒屋さんは実にたくさん来ましたね。お店を閉めていても名刺が何枚か入っていましたし、実際に三人の業者がやってきました。そこでみなさんに相談があるのです。」
 みんなは揚げだし豆腐に箸を突きながら赤ハリ先生の話を聞いていた。
「私はそれらの酒屋の中からいろいろと考えた末に二業者程候補にあげました。
 一つは近くにある商店街の小売り酒店で、もう一つは私の自宅近くで普段から利用していたディスカウントの酒屋です。前者のメリットは夜でも注文すればいつでも配達してくれる事で、後者は値段が安い事です。デメリットはその逆です。」
 それにタア子が質問した。
「赤ハリの性格を考えると、電話一本で配達してくれる商店街の小売店の方がいいのだろうけど、この店がそれ程繁盛してどんどん酒が売れる店になると思う?」
「そうなって欲しいのですが・・・まあ、身の丈にあったようになれば・・・」
「あのさあ、身の丈が程かわかんないけど、ピアノ教師が居酒屋のマスターだよ。たいした身の丈じゃないと思うよ。だったら一本一本の単価が少しでも安い方が助かるよ。面倒臭くても足を運んででもディスカウントの店で仕入れるべきだね。」
タア子がそう助言した。