第二幕第二場(12)

 コロッケと言っても、その大きさはピンポン玉状をコロッケ型に形成したものだった。男性なら一口、女性なら二口で食べられそうだったが、一口目のサクッとした食感とその後に広がるチーズの香りが絶妙な
一品だった。一同の美味しいとの声に、満足げな赤ハリ先生の解説が響いた。
「これはプロセスチーズとエメンタールチーズを細かな賽の目にカットして、マッシュしたポテトに入れて熱いうちに手早くかき混ぜます。するとポテトの熱でチーズが溶けて程良く粘りが出ていい感じになります。あとは小麦粉とパン粉で普通に衣を付けるだけです。ただ、揚げ方に工夫が要ります。中のチーズが溶けださないうちに手早く揚げます。でも早すぎるとサクサクの食感にはなりません。」
 このように赤ハリ先生の講釈の多さはレッスンと同じだ。みんなは(またかあ・・・)と思いながら聞いていた。で、それに辟易した弟子は斎藤ピアノ教室を辞めていったし、先生の講釈が面白いと思って聞いていた弟子達が残って、今こうしてお店のカウンターに座っているのだった。まあ尤も、残った弟子がカウンターに座る事になったのは、辞めていった弟子が多かったという現実があった訳で、その結果としてピアノのグループレッスンではなく居酒屋の試食会という『なんでやねん?』という状況の集まりになったのだった。だから赤ハリ先生の講釈中の(またあ・・)というみんなの雰囲気には師弟愛が感じられた。