第二幕第二場(8)

で、今度はノブタが極端な例を持ち出してヒンシュクを買った。
「わかったよ。では響ちゃんにわかりやすく例えましょう。あなたが二十歳になって俺と結婚して、俺があなたに店を持たせてあげたとします。するとあなたは自由に料理を作りお客様にその料理を出しても、その値段がいくらだろうが構わないって事なのです。」
「ゲゲゲー、なんでうちがノブタさんと結婚しなくてはなんないのよ。」(おいおい、そこかよ〜)
 アラフォーOLのノブチンが言った。
「貴方達の話を聞いているとかえって混乱するだけだわ。だけど調理師免許が必要ないのなら何故調理師免許なんてあるのだろう?」
 その質問には当事者、赤ハリ先生が答えた。
「そうですよねえ、私も当初は免許が必要だと思って取得しようと調べたのですが、必要ないとわかってよかったような残念なような・・・でも考え方によっては、ピアノの先生も免許は要らないのですからね。免許なんてそんな物だと、変に納得してしまった訳ですよ。」
「そおかあ、ピアノの先生は免許いらないのかあ。そうだよね、だってノブチンはあんだけピアノが上手いのにOLやってるし、ノブチンよりヘタなピアノの先生なんていっぱいいるもんね。」
タメ池の褒め言葉にノブチンは少し照れた表情を見せた。そしてオロチが言った。
「そうですよ。だって僕の故郷のピアノの先生なんかバッハをいまだにペダルを踏みながら弾くし、ベートーヴェンなんか僕の方が上手なくらいですよ。」
そのオロチの発言にはみんなが絶句した。故郷の先生がウンヌンではなく、僕の方がの件である。だって、この中の誰もがオロチの弾く現代曲風シューベルトや現代曲風ショパンしか聴いた事がなかったのだ。その男に自分の方が上手だと言われた故郷のピアノの先生って一体???
 ノブチンは冷静だった。こういう人が議長や議事進行役をするべきなのだろう。
「それで赤ハリ先生は結局調理師免許を取らなかったの?」
 そうなのだ。ノブチンは脱線した話を無視して話題を元に戻した。私はその故郷の先生がどんな先生なのか別の意味でとっても興味があったのに・・・