第二幕第一場(9)

 私とタア子は赤ハリ先生の顔を見た。まんざらでもないような表情だったのでタア子が慌てて言った。
「おいおい赤ハリ、よ〜く考えて決めるんだよ。ここだと絶対に一見の客は来ないよ。その工藤さんとやらの店ならともかく、赤ハリは客を惹き付けるだけの魅力的な店にする自信があるの?それに最低でも家賃分は稼がないと大変よ。いくら初期費用が掛からないといっても、皿やコップなどを揃えないといけないんだよ。それから毎月の家賃や光熱費の支払いもあるし、こんな辺ぴな所で10万円以上の家賃を払っていたら絶対に成り立たないって。」
 その時、猪木さんが言った。
「いえ、ここのテナント料は月8万円です。しかも改装は自由にされて構いませんし、もし引き払われる場合には現状維持の必要はありません。つまりそのままにして出ていかれてもいいっていう事です。この店のオーナー様は工藤様を大層お気に入りでした。工藤様の為にこのお店を建てたようなものなのです。ですからオーナー様は、怪しげな人物にここの店舗を貸したくなかったようです。きちんとした人に貸したかったようです。」
 きちんとした人?やっぱりタア子が反応した。赤ハリ先生を指さしながら無礼にも、
「きちんとした人って、この人ピアニストで居酒屋を初めてやるんだよ。そんな人でもいいの?」
と言うと、猪木さんは、
「失礼ながら私からオーナー様に、斎藤様がピアニストである事をお話しさせて頂きました。するとオーナー様は、尚更結構な事だと大層喜ばれてここのテナント料を8万円にすると言われたのです。実はここのテナント料は11万円だったのですよ。」と言った。
 猪木さんのこの言葉で赤ハリ先生は決心したようだ。これでお店は決まった。
 そしてこの日から赤ハリプロジェクトに何故かタメ池が加わったのであった。
(第二幕第一場 店舗探し 終わり)