第二幕第一場(8)

 タア子が即座に訊いた。
「でも、何故前の人はこの店を止めたの?やっぱりこの場所では流行らなかったのではないの?」
「いえ、前のお店はそれなりに流行っていましたよ。」
 猪木さんは朗らかにそして懐かしむように話した。
「香奈里屋というお店は随分と筋のいいお客さんが通ってこられていました。アルコールの度数が違う四種類のビールが置いてあるお店なんて東京でもそんなにありませんからね。それにここのお店はメニューがなかったのです。マスターがその時その時で美味い物を作ってくれ、お客さんはそれを楽しみにしていました。」
「おじちゃん結構詳しいじゃん。そてはここへよく来ていたなあ?」タメ池だ。私がすぐに、
「では何故そのマスターは、ここをたたまれたのでしょうか?」と訊いた。
「それが誰にもわからないのです。ただそのマスターが・・・確か工藤様とお聞きしましたが、最後にマスターがお店のシャッターを閉められた時、そこにお店の常連さん達がわざわざ最後の挨拶に来ていらしたようです。まさに伝説の名店でした。」
「すご〜い、かっこいいじゃん!ねえねえ赤ハリ、ここに決めちゃおうよ。」とタメ池が無責任な発言をした。