第二幕第一場(7)

 結局私達は、タメ池のお父さんの知り合いという不動産屋に案内してもらって物件を見に行く事にした。不動産屋はベテランの男性がわざわざ赤ハリ先生の家まで会社の車で迎えに来てくれて、みんなを現地へ連れて行ってくれた。勿論タメ池も一緒だった。
 車の中で簡単な自己紹介をした。不動産屋の男性は猪木さんといった。
(あらあら、今度は豚ではなくイノシシかよ〜)
 私は思わず吹き出しタア子を見たが、タア子は気づいていなかったようだ。それはそれでよかった。
 そこは三軒茶屋の小さな路地にひっそりと佇んでいた。外見は悪くなかった。だが立地的には、わざわざ足を運ぶ人しか来られないような所だった。いや、わざわざ足を運ぼうと思っても迷ってしまいそうな所だった。
 猪木さんがお店のシャッターを開け、中に私達を案内した。十人程が座れそうなL字のカウンターに四人が座れるテーブルが二つあった。外観以上に店内はお洒落で、今からでも営業を始められそうだった。
「いい店舗でしょう。ここは居抜きです。掘り出し物の物件だと思いますよ。」
猪木さんの言葉に私は理解できなかった。勿論タア子他2名もだった。
「イヌキ?」私とタア子は同時に訊いた。(イノキじゃなくて?)
「そうです。居抜き物件です。店舗の中の全ての物が処分されて何もない状態ではなく、中の状態がそのままになっている物件をそう呼ぶのです。大きなレストランでは、撤退する方は膨大な解体費や処分代が掛からなくて助かり、次の借り手は初期費用が掛からなくてすむので居抜き物件はよくあるのです。特に今は不景気ですからね。だけどこの店舗位の規模だと、借り手が自分の嗜好を店舗に反映させたがるので、椅子や机、調理機器から皿まで完全撤退をオーナー様が要求されるケースが殆んどです。ですからこの店舗のように洒落た内装や椅子、テーブルが残されている物件は滅多にありません。場所と店舗の規模さえ気に入ってもらえれば、ここは是非ともお薦めの物件です。」